ヒステリーの本

飛べない女の子を主人公にした脚本を書かなければならないので、関係なさそうだけれど「飛ぶのが怖い」を読んでみた。70年代に出版された時は、女性が語るにしては奔放な口の聞き方と性遍歴ネタとで話題になったのは想像に難くない。実際、傑作なフレーズもいくつかある。が、翻訳調なので吹き替え版を放送している日曜洋画劇場のノリに近い。

前半はとっちらかった女主人公の三角関係を、精神分析用語をまじえて噛み砕いたというより噛みちらし気味に説明している。が、「これは笑うところだよね?」と迷う。ページをうめつくす「心の中のひとりごと」が全部うんこぽんなんだけど、ものすごいヒステリーを発動している人を笑うと、何かしら悪いことが我が身にふりかかりそうだからにゃあ。おもしろいのは、ひねりにひねった会話の続く前半より、昔の男の話の回想。知的な恋人だと思ったらキティガイだったっていうあたりが、よくあるよくあるってかんじ。

基本的に、この本みんな「よくあるよくある」話に聞こえる。70年代にセンセーショナルに登場したのかもしれないけれど、80年代には巷に似たような人が増殖して、90年代にはドラマや映画で量産されたのかもねん。時々見た目が60年代ジャポネスクで止まっている日本人をロサンゼルスで見たり、髪型がいまだに聖子ちゃんで止まっている人が岡山にいたりする(志麻子曰く)ように、頭の中身がこの本くらいの時代で止まっている女性解放論者っていうのもよくいるよくいる。自分の人生のハイプのスタイルを一生示し続けてしまうその姿は、最高気温を示す温度計に似ている・・・よね。

70年代のフェミニズムアートにアイタタなのが多くても、それを通過した上で今があるのだから黙殺はできないのと同じように、この本のいたたまれない部分も苦笑いのまま受け止めやしょう。フェミニズムアートのクラスでの「好きじゃなくても良いけど、知っておいて」という先生の言葉にイマサラうなづけました。