不道徳の本

おせっかいな大人がくどくどと話す説教モノという繋がりでお勧めなのが、三島由紀夫の「不道徳教育講座」。もともと雑誌「明星」の連載だったそうで、当時の「最近の若いの」相手に三島がどうせ悪い事するならもっと大きな事をしなさいよとけしかけるエッセイ集。もちろん1967年に不道徳だと思われていた事なんて、道徳という概念が死んだ今では「ほっほー」と思うような事も含まれているが、三島マジックにかかると不道徳を極めると存外まともな人間になれそうに思えてくる。不道徳から屁理屈でを並べて道徳の尻尾につながる、洒落た離れ業をやってのける自惚れ加減も憎らしいほど手際が良い。

常識外れな人が、実際のところは「普通な人」よりも常識に詳しく、憧れ、熱望しているのと同じような仕組みで、三島は道徳に詳しいという所まで匂わせて「ハイおしまい」と終わる。日本一厳密で、正確な文章を綴ったストイックな小説家が、ペロリと舌を出して笑った瞬間を目にしたような錯覚を覚える。この人も良い歳したジジイになっていたら、武勇伝なり自慢話なりをえんえんと聞きにいったものをー。

不道徳教育講座 (角川文庫)

不道徳教育講座 (角川文庫)