育ちの悪い本

桐野夏生が描く変人はなんでこんなに真に迫っているのだろうかね。「I'm sorry,mama.」の主人公アイ子は登場した時から、育ちの悪さから来る汚れ感と不気味さを漂わせている。他人に害を及ぼすレベルのズボラさが恐ろしいと同時に、怖いもの見たさで目が離せない。また、登場人物がそれぞれずさんな性格をしていて、そのだらしない部分こそがストーリーを紡ぎ出す原動力のようになっているのがおもしろい。

一人のキャラクターを描き出すのに、分析し尽くした見解でもってできるだけ細やかに表現するのは、ただ単なる凝り性というだけで何の得にもならないのだと思えてくる。桐野夏生の場合は、おしゃれの達人が時折見せるハズしテクニックのような洒脱さで、ダメなものやワルイものまで鮮やかにシュッと描いてしまう。死角のないキャラ立ち。そしてこういうキャラならこういう人を引き寄せるに違いないという、周辺キャラの選択の的確さ。オチはありがちかもしれないが、それはそれで小劇団の脚本のようで良作だと思った。


I'm sorry,mama.

I'm sorry,mama.