貧乏の本

自分の周囲ではかっこいい生き様の女を「漢前」と言って誉めるのだが。戦前の旧家でやたらオトコマエな女性が出てくるのが宮尾登美子の「松風の家」。あなたはこういう家で育ったんですか?と問い詰めたくなるほど詳しい生活描写に舌を巻くですよ。櫂シリーズと比べてかったるい滑り出しに戸惑いながらも、百年続く茶家の暮らしやら、家族中が鬱になるほどの貧乏だとか知らない世界の景色にほうほうとうなづいちまいます。

禅を基礎に置きながらも道具への執着=物欲の激しさを奨励するような矛盾を茶道ではどう解消しているのかなと思いはじめる頃に、夫が道具を求めて犬死するくだりはすごい。静謐な茶室とその奥でコントロールしている感情の起伏は根底で繋がっているのに、表では露ほどにも出さない。その境地は仏教らしい諦観とも、京にんげんの生き方とも、戦前の女らしい忍従とも取れるのだろうけれど、オトコマエな生き方として綴られているように思う。

結婚も人生も「家」に縛られた家父長的封建的世界でいかに才気溢れる女性がしいたげられたか・・・としか読めないのなら、たとえ女性読者であってもセンスねぇなーと思いますにょ。昔むかし、女のひとはいろいろ虐げられてきた、ってひとくくりにするのはそれはそれで失礼だなと思う程、オットコマエな生き方をロングスパンでいくつもかいつまんで読める本てのはミソジ直前の自分の実になる本でした。

松風の家 上 (文春文庫)

松風の家 上 (文春文庫)