戦争の本
「豪華声優陣全滅」と聞いていたが、大友克洋への愛ゆえに「スチームボーイ」を見てきた。帰りにIJ君とタコヤキつつきながら反省会をしてしまうくらいの残念賞。なぜだかもう他人ごとじゃない。AKIRA以降は大友作品を見ていないアメ人ファンに、したり顔で大したことねぇなとか言われたくないんじゃ。んぎぃー。
まず声優が口の動きとズレまくっているのが気になるけど、あれはコツがあるんじゃなかろうか。セーラームーンの英語版だって、もともと英語なのか?ってくらい合ってるのに。あと、脚本がマズい。セリフが学芸会並。もうとにかく前半がタルいし、後半のテンポが上がってもセリフがマヌケ。いちいち呼びかける相手の名前を呼ぶな!・・・ということは、下手すると英語版で吹き替えた場合にはずっとましな映画になるのかもしれない。
同じ映像を使ってアフレコ大会をやったら、かなりおもしろい映画になりそうなんだけどなぁ。楽しい場面はちょこちょこあったんだし。たとえば・・(以下ネタバレ)
- 科学への壮大な夢を語る父の話を誰も聞いていないところ
- 壮大な計画を語る悪者フィギュアをありがちだとコケにしているようで良いが、コネタで終わる。父の手下らしい二人が主人公少年を個人的恨み?で追いかけつづける理由がよく分からない。
- アメリカの資本が各国軍事顧問を集めて兵器の展示販売会を開いているところ
- 時期的にもナイス。全員一同に介して買い付けするわけないけど、良い風刺。セリフがほとんどないので背景レベルの登場で終わっているのが惜しい。
- 2足歩行蒸気ロボットには人が入っていたところ
- 一見STARWARSなのが笑った。いくらアニメでも19世紀に2足歩行はネエYO!というツッコミも良いし、結局は下っ端の兵士が死んでいくのが戦争というのが良い。
- 科学に対する見解の相違を見せた親子が結局協力して操縦しているところ
- 科学の兵器利用の可否をめぐるありがちな二項対立とみせかけて、結局は科学バカ親子二人が協力しているのが良い。しかし平和利用を主張する爺さんが作りたかったものは不明。
- 事件を目撃することの広告効果に注意をうながしたのが良い
- アクションものでは大災害は単におこるだけなのだが、それを目撃する事の影響力を指摘しているのが良い。19世紀初頭に進歩したのは科学のほか、写真技術や広告だったという視点は冴えている。
- 主人公の少年と少女がくっつかないのが良い
- 兵器開発も資金調達の為ならあたりまえという女子と、とにかく目の前の人死には最小限にという少年が対立しないのがおもしろい。好意をほのめかす程度で終わり、少年の立ち位置も含めてあいまいなのは良い。
これらの良いポイントがどれ一つとして大きなストーリーにしっくりからんでいっていない気がする。コネタを散財しているかんじで、積み重なって大きなメッセージにならないから、余計に勿体無い感が強いのかも。
随所に光るコネタのどれもが、ちょっとした政治的見解に繋がっているように思う。自分の妄想だが、本来あった政治色を削りに削ってこの脚本はガタガタになっちまったのではないだろうか。一大産業といっても良いプロダクションになれば、「これマズいんじゃないんすか」なんていう声が四方八方から寄せられるのは想像に難くない。マイケル・ムーアほど直截的じゃなくても、10年もかけて制作している間に今の戦争の琴線に触れるような筋・セリフに自らおののいちゃっていてもおかしくないからなぁ。結局絵だけが素晴らしいアニメになっちった。
「気分はもう戦争」は時代背景にかかわらず、何時読んでも切り口が新鮮だのに。あのストーリーテリングの強さが欲しかったなぁ。奥歯に飯粒がはさまったまま怒鳴ってるような行儀の悪さが好きだなぁって矢作俊彦が好きなだけだったのかなぁ自分は。そんなはずはないんだけどなぁー。
- 作者: 矢作俊彦,大友克洋
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2000/12
- メディア: コミック
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