中国の本質の本

電車のつり革に新明解国語辞典の宣伝がさがっていた。この辞典の例文に共通して見え隠れする男性キャラを「新解さん」と呼んで、辞典を読み込むのが流行ったのが高校の頃だったか。でも、そんな用途のために国語辞典を買う事を親に拒否されたので、自宅にあった中国語辞典を読んでみた・・・ら、新解さんより強力な敵が現れた。新解さんのおもしろさは、どことないシュールさと辛辣さみたいな、よくわからないから使いたくない言葉のひとつの「ペーソスただよう」人物像にあるのだろうと夢想しているのだけれど(だってまだ読んでいない。いつしか入院した日にでもととっておいている)、中日さん(仮称)にはそんなあやうさがなくて、どぎつくて正面切って危ない。
ちなみに大学で中国語のクラスをとった時に「岩波の中国語辞典をもっていますが」ときいたら「使わないでください」といわれた。amazonの書評を見ると、多くは語られていないが、独創的で「中国語の本質に迫る」とある。確かに、例文にちょい昔の中国人メンタリティーが山とつまれている。
簡単に言えば、倫理コードにひっかかりすぎるのだ。
30年近く昔の父の会社蔵書印がついた古いバージョンのせいか、「女を牛馬のようにこきつかって良い時代は終わってしまったなぁ。」なんて言っている。「ヤン、あたしできちゃったの。」「できちゃったって、何が?」「あなたの赤ちゃんよ」なんていきなりドラマが始まったりもする。中国版さのばびっち=「オマエは母ちゃんが獣姦してできた子だ!」なんて、言われたらほんとにヘコむ。気のつかない女子を表す慣用句に「あの子は穴が足りない」なんて、現代っ子でも言うのだろうか。イヤアアアァ!首っ引きでいたら、毎日一口中国語だけで更新したくなるくらいの傑作オンパレードなのだ。(最新刷でもそうなのだろうか)
実は、本腰を入れてこの辞書の傑作例文を抜書きしたのが、某お嬢様女子大受験日の前日だった。入試当日には休み時間が終わって大学職員に教室にせきたてられるまで、友達にネタを披露して笑いこけていた。そうしてリラックスしきった友人は見事すべりどめ校に合格、私のほうは滑り落ちた。多分、正統派お嬢様大学としては中国語でさのばびっちなどと言って大笑いしている、中日さんよりアブナイ高校生を入学させたくなかったのではないかと、思われるよ。

新解さんの謎 (文春文庫)

新解さんの謎 (文春文庫)

岩波 中国語辞典

岩波 中国語辞典