明治日本の本

坂の上の雲」をやっとこさ読み終わった。老人の繰言のように繰り返しが多く、これまた老人の昔話のように話があっちゃこっちゃに飛ぶ、集中力を持続しずらいことこの上ない小説であった。もともとどこへ向かうのかもよく分からないまま始めた下調べに5年、連載に4年かかった大作が駄作だと言っているのではない。
「ちんこ的」*1な起承転結を避けて、らせんを描くようにして日露戦争を書きつづる手法を取ったことに歴史小説という枠に組み込まれまいという意思を感じる。おかげで、あの時代の日本人がどういう「気分」で国際社会への仲間入りを夢見ていたのか、自分の上司が準備を全くしていない企画をクライアントにプレゼンしに行く時の「気合」と同じくらい身近に感じ取れた・・・ような気がした。たくさんの特異な、または平凡なサンプルを、戦場という最も合理的であるべき磁場で解釈・分析することで、「あのころの日本人」という獏とした集合を描ききることに成功しているのはとっても不思議なことのように思えた。
が、「小説という表現形式のたのもしさは、マヨネーズをつくるほどの厳密さもないことである。」というあとがきに笑った。頼もしいのは司馬遼太郎のほうじゃないか。
※当初全6巻で出版された分のあとがきは文庫本第8巻にまとめて収録してある。

新装版 坂の上の雲 (8) (文春文庫)

新装版 坂の上の雲 (8) (文春文庫)