うまい酒の本

思いがけない休日がやってきても、普段通る道やなじみの駅以外にはなかなか出かけない。毎日が日曜日になってから余計にそう思う。まるで呪いでもかけられているかのうように。大学時代は研究室(または図書館)と下宿だけを往復する人を「二地点君」と呼んで嘲笑ったけれど、悲しいかな、自由時間を得ても大差はない。ルーティンから一歩でも外れれば冒険で、そんな冒険を日常的には欲しがっていないんだろうと思うと、つまらない大人になってしまったんじゃないかと危機感も募る。
嵐山光三郎とゆかいな仲間たちが東京を散歩して書いた雑誌連載を、文庫化に際してちょこっと最新情報も追加した「東京旅行記」を読むと、東京を冒険したくてたまらなくなる。「酒が飲みたくて地団太を踏んでしまう」なんて粋なことを言う不良中年の親玉が、ここぞという場所をどんどん教えてくれる。もう耳学問ばっかりで頭でっかちになって、こっちが地団太を踏んでしまう。おっさんが2,3人連れでじわぁっといい時間過ごしている居酒屋に30過ぎの小娘はどう踏み込めばいいのやら。異境に踏み込む第一歩からしてドキドキもんだ。ちったぁいい女になれるかどうかの仕合に出てみたくなる。

東京旅行記 (知恵の森文庫)

東京旅行記 (知恵の森文庫)