ダークサイドの本

いろいろな事柄がぴったりのタイミングで重なって不細工道を突っ走り始めたこの夏に旋律を覚えながらも非常に納得した一冊「晩鐘」。乃南アサの「風紋」の続編である、不倫のハテに殺された母の娘として、事件当時高校生だった主人公が大学を卒業して就職したあたりのお話。

本当はかなり美少女だったはずの彼女の中身がドロドロにブサイクになってしまった過程と、それが再生産されていく様が克明に。そして加害者側の家族でも繰り返される、ほぼ理不尽ともいえる運命。「なんだよオマエみたいな奴の頭の構造なんか一生わかんねえよ」ってな相手の思考回路の袋小路をともにめぐるうちに、ふと人間なんて境遇次第で紙一重だと思えるようになります。自分を他人と比較してちょっとでも立派だとか、まともだとか勘違いした時には、それがどれだけ境遇の妙の上に成り立っているのか再認識すべきと奈落に突き落としてくれる本です。

ちょうど、暗い穴倉みたいなところで人にも会わないで仕事をしながらブクブク太っていた頃にコレを読んでいました。太るとかわいい服が入らない、自然どうでもいいカッコになる、余計に人目を避ける、太ったからもっと食べる、桁外れに太ると顔も変わる、化粧どころか人目を気にするガラでもないと思うようになる、楽しみが食べる事くらいになる、もっと太る、服はオッサンみたいになる、そろそろ性別が関係なくなる、挙動も女じゃなくなる・・・デブスパイラルに見事にはまりました。ある日、可愛い女の子を電車で眺めながら「女の子はエエのう、可愛い子は何しててもエエのう」と人事のように眺めている自分が、すでに(土俵を下りた)デブ思考を身に着けている事に気づいたのです。

あなおそろしや。女としての張り合いを全て失っている、枯れた自分にビビりました。「何か面白い事はないかねー」と呟く自分が、かつて「そういう事を人に聞く人の生き様が分からない」と思っていた不思議。そこから何をバネに生きる活力を取り戻したのかはワカリマセンが、何かしら他力本願だったのは確かです。覚えていないので。ただ、これから「自分がこうまでして生きていかなきゃいけない価値が分からない」などと口走る人間を「無気力」「無能」とバカにできるほど、偉くないのだという事だけは分かりました。


晩鐘〈上〉 (双葉文庫)

晩鐘〈上〉 (双葉文庫)